Diary

おくたま日記

2019年08月22日

奥多摩湖畔で始めた新婚生活。ひとつの百点満点が暮らしを楽しくする

こんにちは、西田です。いきなり美女とのツーショットを見せつけてごめんなさい。

男性読者から嫉妬混じりの罵声が浴びせられそうですが、どうか落ち着いてください。この人は人妻です。

こちらの島崎詳子さんは2017年の冬に奥多摩在住の男性と結婚し、翌春から奥多摩での新婚生活を始めました。

見知らぬ土地での新生活に対する不安から始まり、奥多摩のなかでも比較的不便な場所である小河内地区で、いま詳子さんはどのように暮らしているのか。お話を聞かせてもらいました。

不安を乗り越え、覚悟を決めて始めた奥多摩生活

今日はよろしくお願いします。さっそくですが、奥多摩に来る前はどこに住んでいたんですか?

埼玉県の飯能市で生まれ育って、基本的にはずっと飯能にいました。

飯能市ってかなり広いじゃないですか。市街地もあれば山間部もあると思うのですが。

南高麗(みなみこま)という山間の地区でした。飯能駅まで車で20分とかの結構な山の中で、バスも1日6本なので、いま住んでいる奥多摩の小河内地区と同じような条件でしたね。車は1人1台持ってないとだめです。

そんな飯能から結婚を機に奥多摩にやってきたわけですが、奥多摩に住むことが決まったときは正直どう思いました?

すっごい不安でした! 私は地元愛が強くて、飯能が大好きで、この先もずっと飯能にいるんだろうなって思っていたので。

不安だったのは見知らぬ土地だから? それとも不便そうな場所だったから?

知り合いが誰もいないという不安ですね。地元で長年築き上げてきたような人間関係とかを見知らぬ土地でまたゼロから作れるのかなって。

大きな決心だったんですね。

覚悟を決めて来ました。人付き合いに関しては夫がいろいろサポートしてくれたので本当に助かりました。顔の広い人なので、あちこち連れて行ってもらううちにどんどん知り合いが増えて、徐々に不安も和らいでいきました。

旦那さんと出会う以前に奥多摩に来たことはあったんですか?

登山が好きなので、山登りで何度か来ていました。ただ町中は山に行くまでの通過点でしかなかったので、途中でお店とかに寄るわけでもなく、山だけ行って帰ってくるって感じでしたね。

じゃあ町に対する印象は特に無かったと。

奥多摩駅ってここにあるんだーくらいの感想しかなかったです。

もう少しあってもいいでしょ!

道路から見える山間にぽつんと家があったりして、このあたりに住んでる人は大変じゃないのかなーとは思っていました。まさか自分が住むことになるとは思わなかったです。

買い物や仕事には意外と困らなかった

窓の向こうに奥多摩湖が一望できる詳子さんの家

現在の生活についてお聞きしたいのですが、今は旦那さんとのふたり暮らしですか?

はい。それまで彼はご両親と暮らしていたのですが、結婚を機に奥多摩湖のほとりにふたりで暮らす家を見つけてくれました。初めてその家を見せてもらったとき、目の前が奥多摩湖ですごく眺めが良くて、縁側に腰掛けてお茶やお酒を飲んだら最高だろうなって思いました。

湖畔の家ってなんか素敵。

傷んでいる部分も多少あったんですけどね。そこは自分たちで直せばいいやって思えたし、不便さも気にならなくって、「おっ、良い家じゃん」っていう印象でした。

すぐに気に入ったんですね。そんな家での暮らしが始まってもう1年以上経っていますが、いざ住んでみてどうでしょう。

最寄りのスーパーまで車で45分くらいなので、買い物に慣れるまでが大変でした。でもコープの宅配を使うようになってから楽になりましたね。スーパーまで行っていたときは10日分くらいの献立を考えてガッツリまとめ買いをしていましたが、コープでの生活に慣れてくると、コープに売っているもので何とかしようって発想になってきます。

僕はコープって使ったことないなあ。

野菜、果物、肉とかなんでもあって便利ですよ。トイレットペーパーや洗剤みたいな生活用品もあるので助かってます。

そんなに充実してるのか! でも料理好きな人たちには物足りないですよね。なんか謎の粉とか草とか使うじゃないですか彼らって。

そうですね、あまりマニアックな食材はないので、そういうのは街に出たときに買えばいいかな。

そうそう、住む前後のギャップでいうと、都内に出るのが意外と楽でした。住む前は都内なんかめったに行けないんだろうなと思っていたんですが、わりと行きやすいなと。

わかるかも。時間はかかるけど、電車はガラガラだからストレス無いし。

ほかにも意外だったのは、求人情報がちゃんとあるってことです。奥多摩で仕事が見つかるか心配だったんですが、探してみたらわりとあるなって思いました。

今はどんなお仕事をしているんですか?

町内の観光施設でインフォメーションスタッフをしています。夫の職場関係の人に紹介していただきました。それ以外にもいろいろ求人情報があって、やってみたい仕事はいくつかありました。カフェスタッフとか。

そういう求人ってどこで見つけるんですか?

ネットで「奥多摩 求人」とかで検索して見つかりましたよ。

ふつうに求人サイトに載ってるんだ。

はい。どうしてもこれじゃなきゃ嫌みたいなこだわりがなければ、仕事は見つかると思います。

奥多摩暮らしのここが好き、みたいなものはありますか?

登山好きとしては、山にすぐ行ける環境なのは嬉しいですね。その気になれば雲取山(※)も家から歩いて登れるくらいで。山梨や長野へのアクセスも良いから、南アルプスや北アルプスみたいな他県の山にも行きやすいです。

※雲取山:標高2017メートルの東京都最高峰の山

山好きにはこれ以上ない環境なんですね。

山が好きじゃなくても、長野や山梨っておもしろい街があるから楽しいですよ。甲府とか。都心に住んでたら行く機会がなさそうな場所でも、奥多摩に住んでるから行ってみるかってなるし、行ってみたら楽しかったという。うちからだと立川に行くのも甲府に行くのも同じ時間ですし。

そうでもしないと甲府は行かないですよね。

甲府に失礼だな。そんなことないですよ。おもしろいですよ甲府。

避けては通れぬ、虫とのお付き合い

今のところ良い話ばかりでこのままだとステマになってしまうので、奥多摩生活の辛い部分や不満みたいなことも聞きたいのですが。

住み始めの頃はバイクの音が気になりましたね。青梅街道沿いの家なので。普通に走ってくれればいいんですけど、たまにすっごい大きい音を鳴らしてるバイクや車がいて。土日だと遅い時間にも走っているので、それで目が覚めちゃうこともありました。

走り屋みたいな人たち、結構いますもんね。

あとはまあ、虫ですよね。

虫の話きたー!!

急に興奮した! 虫好きなんですか?

大っっっ嫌いです! でも虫の苦労話を分かち合うのは大好きで。どんな虫が出るんですか? やっぱりムカデ?

ムカデですね。あとゴキブリも。今日はバルサン焚いてからここに来てます。

飯能の実家ではどうでした? 話を聞くかぎり結構虫が出そうな土地ですが。

飯能でも出てたんですけど、奥多摩は出る量が違うっていうか……。ムカデは出るたびに正の字で記録してて、今年に入って20匹以上は出てます。

さすがにその頻度は気が滅入ると。

はい。どこかにいるんじゃないかって常にビクビクしちゃうんです。

わかりすぎる。うちはムカデとゲジゲジが出るんですけど、帰宅したときとか夜寝室に行くときとかに「いたらどうしよう」って思いながらキョロキョロしちゃいます。

神経質になっちゃうんですよね。細長いものがムカデに見えたり。この前も台所にムカデがいてドキッとしたんですが、よく見たらゴボウの皮でした。

あるある! 僕もたまに壁の木目が虫に見えてビビります。ほんと参っちゃいますよねー!

「参っちゃいますよねー! アッハハハハー!!」

(楽しそうだなあ……。)

そういえばお風呂は薪で沸かしてるって旦那さんから聞いたんですけど、それも大変じゃないですか?

そうだと思いますが、お風呂は夫の担当なのでよくわかりません。大変なんでしょうけどね(笑)。それに薪のお風呂は体が温まって良いよってみんな言ってて、言われてみれば確かにそうかもっていう実感はあります。

プラシーボ効果では?

どうだろう。でもやっぱり違いは感じますよ!

その他にはありますか? 奥多摩生活で困っていること。

野生動物ですかね。とくにサル。畑はやってないので農作物の被害とかはないんですけど、屋根の上でバタバタされたり糞をあちこちにされるのは迷惑です。まあ虫に比べれば可愛いもんですが。

わかるわー。

あとは、嫌なことではなくて単純に驚いたことなんですけど、夫宛の宅配荷物が、家に不在だったからといって夫の職場に届いたことにはびっくりしました。どこに住んでる人がどこに勤めてるのかを知られてるのが、色んな意味ですごいなと。

便利な側面もあるけど、考え方によっては怖いですよね。個人情報ダダ漏れみたいな。

土地は広い奥多摩ですけど、コミュニティは狭いですからね。良くも悪くも人との繋がりが強いので隠し事もできないです。でもそういう密な人間関係が築けるのは良いことだと思います。

僕も、お隣さんから「畑でトマトがたくさん採れたから」とか「炊き込みご飯を作りすぎちゃって」とかでおすそ分けをもらったことがあるんですが、こういうの本当にあるんだーって感動しました。

良いですよね。そういうのは都会だとないだろうし、人との距離が近いのは良いことです。

暮らしを楽しむ秘訣は、ひとつの「百点満点」

お話を聞くかぎり、奥多摩での生活に対する大きな不安や不満はなさそうに見えますが。

家の前が急な坂道なので、年を取ったときに上り下りができるかなっていうのは心配です。

それ40年後くらいの話じゃないですか! 逆に言うとそれくらいの不安しかないってことですか?

そうですね。ただ病院が遠いのはちょっと不安かもしれません。健康体だから今の家に住んでいられるけど、いずれ何かあったときは住む場所も考えなきゃいけないのかも。まあでも当分は今のところで大丈夫だと思ってます。

この先もずっと奥多摩で暮らすつもりでいますか? といっても旦那さん次第でしょうけど。

はい、ずっと奥多摩に住むつもりでいます。嫁いできたってこともあるから簡単には出ていけないし、その覚悟を決めた上で来たわけだから、その気でいます。

それもそうか。

逆に、そういう事情がなければ気軽に住み始めていいんじゃないですかね。

ですよね。僕は独身で気軽に奥多摩に引越してきたから、もしかしたら気軽にまたどこか違う場所に行っちゃうかもしれません。

それでいいと思います。

これから奥多摩で暮らそうとしている人に伝えたいことがあるとしたら、どんなことでしょうか。

んー、日当たりかな?

日当たりの良い家に住めってことですか?

日当たりは大事ですよ。実家の日当たりがすごく悪かったので、奥多摩で住むなら日当たりの良い家っていうのが第一条件だったんです。今の家はとっても日当たりが良くて、そのおかげで奥多摩での暮らしが気に入っているのかもしれません。

つまり、大事にしているものをひとつ決めて、そこを譲らないようにするわけですね。詳子さんの場合はそれが日当たりだったと。

そうそう。「不便だけど日当たり良いいからいっか!」とか「虫は出るけど日当たり良いからいっか!」みたいな。それでカバーできるんです。

確かに、全部が中途半端だと「あれもいまいち、これもいまいち」みたいに不満が溜まる一方かもしれませんね。でも百点満点の要素がひとつあれば、その他の不満に対して寛容になれるわけだ。

そうです。あとは、都会のような便利さはないけど、かといって仙人みたいな暮らしをしているわけではないし、住み始めちゃえば全然何とかなるよってことは伝えたいですね。多少の不便さは工夫次第で解消できるし、自然と順応していきます。

終わりに

奥多摩での暮らしぶりを聞かせてくれた詳子さん。良い部分だけでなく不満に思っていることも教えてくれましたが、話しているあいだは終始ニコニコしていたので、全てひっくるめた上で今の生活を楽しんでいることが伝わってきました。

個人的に印象に残ったのは「日当たり」の話。百点満点のお気に入りポイントを見つけることは、必ずしも良いところだけではない奥多摩暮らしを楽しむための、ひとつのヒントではないでしょうか。

豊かな自然に囲まれた奥多摩には、都会では決して感じることのできない魅力がたくさん詰まっています。詳子さんのように、奥多摩ならではの「何か」に心惹かれ、この町での暮らしを楽しむ人がこれからも増えていけばいいなと思いました。

Writer

この記事を書いた人

西田和哉

おくたま勝手に団の団長。2017年に奥多摩に移住し、築110年の古民家をゲストハウスにしました。現在は若い移住者を呼び込むためのシェアハウスをつくっている真っ最中です。

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