Diary

おくたま日記

2020年01月18日

探検ぼくのまち!地元民のマニアック目線で奥多摩駅周辺を散歩してみた

奥多摩町は広い。その面積は東京都の自治体で最大の約226km2で、都全体の面積の1割強を占めている。だがその大半は山林で、人が暮らしている面積はごく一部だ。

そう、奥多摩町は山の中にある。谷や尾根の開けた場所に点在する集落は今でこそ舗装道路で結ばれているが、かつては山や渓谷に阻まれ、相互の往来は困難だっただろう。

とくに東西の移動は山あり谷ありで道のりが険しいため、山の尾根沿いを南北に行き来するほうが主流だったそうだ。なので現在の奥多摩駅周辺の集落は青梅よりも五日市や秩父との交流が密接だった。

そもそも昔は奥多摩駅の周辺が氷川村、古里駅の周辺が古里村と別々の村で、1955年の合併で奥多摩町が誕生したのだ。

同じ奥多摩町内でも地域によって交流していた相手が異なり、標高や地形も様々だから、人々の暮らしも違っていたはず。そう思って町を散策していると集落ごとに雰囲気の違いが感じられる。

そこで今回は僕の住んでいる奥多摩駅周辺の様子を紹介してみよう。駅からの散策ルートという形にするので、興味のある人は実際に辿ってみてはどうだろうか。

なお全てが僕の個人的嗜好に基づく視点になっている点はご容赦いただきたい。

スタート地点、奥多摩駅からの眺め

それでは出発しよう。スタート地点は奥多摩駅だ。

 

歴史あるカッコいい駅舎

電車を降りて、改札口からロータリーへ吐き出されたところだと想像してほしい。

 

正面はバスターミナル。タクシーはほとんどいない

正面のバスターミナル越しに見える山は、東京都最高峰の雲取山(2017m)へと続く石尾根の先端にあたる。よく見ると灰色の四角い物体が無数に配置されているが、ずばりこれは墓だ。

 

駅の右側

駅を背にして右へ視線を向けると、奥のほうに白い大きな建物がある。もちろん奥多摩スケールでの「大きな」であって、都心感覚では全然大きくない。

 

駅前の一等地に建ち、背後を流れる日原川を見下ろす眺望の良さも備えたこの建物は、奥多摩町役場だ。

 

駅の左側

駅を出てまず目に入るのが墓地と役場というのは観光地としてどうかと思うが、左側には昔ながらの横丁やクラフトビールのお店や観光案内所などがあり、それなりにサビのある風景だ。

そもそも奥多摩は昔から観光地だったわけではない。町が最も賑わったのは小河内ダム建設工事の頃で、人口の推移はダムが竣工した1957年以降減少の一途を辿っている。

つまり奥多摩町は観光立町というより、ダム建設の作業員達で栄えた町だ。それを踏まえれば、駅前の横丁や商店街などは必ずしも観光客向けとは言えないものの、歴史ある趣を感じられる。

ただし後継者不足などから閉めてしまう店も多く、いかんせん活気が足りない。これをどのように盛り上げていくのかが今後の課題だ。

美しい自然に溶けこむ産業の香り

大抵の観光客は駅を出て左の商店街方面へ向かうが、今回は役場のある右側へ足を向けてみよう。

役場を通り過ぎた先には大きな工場があり、その手前で左に折れた道は、日原川が一望できる北氷川橋へと続く。

 

河原から朝日をバックに

橋のたもとには河原へ降りる遊歩道があり、降りた先を少し上流へ進めば工場を間近から見上げることができる。

この工場は石灰岩の採掘と加工を行う奥多摩工業のものだ。山林が大半を占める奥多摩には林業や農業が盛んなイメージがあるかもしれないが、この町の主産業は石灰岩鉱山なのだ。

 

河原から引き返して道路に戻り、北氷川橋を渡ったら突き当りを右に曲がって直進すると日原川をまたぐ女夫橋がある。

 

橋の上から西を向くとコンクリート製のアーチ橋が見えるが、これは旧小河内線(水根貨物線)の日原川橋梁だ。旧小河内線とは、小河内ダムの建設時に奥多摩駅とダムとの間に敷かれた物資輸送用の鉄道である。当時の奥多摩駅は氷川駅という名称だった。

旧小河内線はダム竣工後に観光用路線になる計画だったが、実現せずに事実上の廃線となった。軌道はほぼそのままの姿で現存し、橋やトンネルなどの遺構は奥多摩駅からの徒歩圏内にも多く残っている。

女夫橋の先の山間部には集落がある。利便性の高い立地とは言い難いが、いかにも奥多摩らしいその雰囲気は、田舎暮らしを好む人には向いているかもしれない。興味があれば見て回ってもいいだろう。

今回は女夫橋は渡らずに引き返す。といっても来た道は戻らず、橋の南端の西側にある階段を登り、日原街道まで出る。

このあたりは栃久保という地区で、駅も近いし見晴らしもいいが、住みたいのであれば注意が必要だ。というのも先ほどの工場から近いため、平日昼間の稼働中は絶えず機械音が響いているからだ。人によっては不快な音量かもしれないので、栃久保に住むことを検討している人は一度平日に来てどの程度の音なのか確認した方がいい。

 

ちなみにその工場、高台から見るとなかなか迫力がある。

 

高台の場所はここ。どんな角度から見てもカッコいい工場なので様々な視点から楽しんでほしい。

 

また今回の散策ルートからは外れるが、旧小河内線の遺構の第三氷川隧道はジブリっぽい雰囲気もあって素敵だ。

 

奥多摩むかし道というハイキングコースの途中にあるので、機会があれば訪れてみてはどうだろうか。

清流に彩られた町並みを歩く

栃久保の様子を見終わったら日原街道を南下し、青梅街道にぶつかる直前で、若松屋という電気屋さんの脇にある階段を降りてみる。

 

そこには湧水があり、澄んだ水がこんこんと流れ出ている。地域の暮らしに欠かせない大切なものだったのか、水場はいつもきれいに手入れされていて、お酒が供えられていることもある。飲用できるかは分からないので、飲む場合は自己責任で。

湧水の先には氷川大橋の下をくぐるかたちで氷川渓谷遊歩道が続いており、進んでいくと二つの吊橋がある。

 

氷川小橋。東側から河原に降りられる

手前にあるのが氷川小橋で、氷川小橋を渡らずさらに奥に進んだところにあるのが登計橋だ。ここで日原川と多摩川が合流する。

 

河原から見上げた登計橋。台風後の写真のため川の色が濁っている

多摩川と日原川では水の色が違うが、これは水温の差によるものらしい。水温の低い日原川には藻が生えにくく川底の石の色がそのまま見える一方、多摩川は鮮やかな青緑色だ。それぞれの表情を楽しもう。

 

狛犬は昭和初期のもの。もうすぐ百歳

さて今回は氷川小橋を渡り、そのまま上り坂を進んでみよう。すると右手に奥氷川神社の境内が見えてくる。

 

奥氷川神社はスサノオとクシナダヒメを祀った神社だ。

 

根本が一体化している。植物って不思議

境内には東京都指定天然記念物の「氷川の三本杉」が佇む。50メートルの樹高は杉としては都内最高で、三本の杉が根本近くで癒着し成長したのだという。

現在はこじんまりとした神社だが、かつては奥多摩駅周辺を含む広大な神社だったらしい。大宮の氷川神社、所沢の中氷川神社とともに武蔵三氷川と呼ばれている。

ちなみに8月の第2土曜には毎年盛大な夏祭りがある。花火も上がり、奥氷川神社の周辺が大勢の人で賑わう奥多摩最大の祭りだ。

町の心臓部を通り、川のほとりの温泉へ

神社でお参りを終えたら、青梅街道へ出て東に進もう。するとすぐに五叉路があるのだが、周囲には八百屋や精肉店などの商店が集中しており、ここが奥多摩駅エリアの心臓部だと言える。

昭和橋から見た奥多摩駅方面

五差路を右折して南東に進むと、赤くて大きな昭和橋がある。この道路は新氷川トンネルが開通した1983年までは青梅街道で、かつては青梅から奥多摩へ入るメインルートだった。

その道を進んでいくと、やがて左側に「←もえぎの湯」と書かれた小さな看板と、その奥へ続く小路がある。

 

小路はもえぎの湯という日帰り温泉施設に続いており、道中にあるもえぎ橋という吊り橋からは美しい渓谷が望める。

 

橋を渡って突き当たった道路を右に折れればもえぎの湯に到着する。余談だが、小規模な施設なので週末になるとひどい混雑で入浴どころではない。なお奥多摩町民は割引料金で入浴できる。

 

それはさておき、入口前には奥多摩のゆるキャラ「わさぴー」の顔ハメがある。だが顔をハメられるのはわさぴーと一緒に入浴している鹿か、湯船の外からわさぴーに襲い掛かる熊のみ。わさぴーにはなれない。

締めくくりは秘密の展望スポットで

もえぎの湯を出たら来た道を引き返し、もえぎ橋には戻らずに直進してトンネルをくぐろう。トンネルを抜けて少し歩くと右側にもえぎの湯の大きな看板があり、その脇に階段がある。

今回の散策は奥多摩駅付近を一望できるスポットで締めくくりたいのだが、この階段の先にそれがあるのだ。

 

胸熱の絶景、写真で伝わるだろうか

階段は新氷川トンネル西側の上に繋がっている。地元の人以外にはほとんど知られていないだろうが、ここからの眺めはなかなかのものだ。

並行して走る青梅街道と多摩川。ゆるやかなカーブを描く氷川渓谷。正面には先ほど通った五叉路の信号が見える。

左側には昭和橋の真っ赤なアーチが愛宕山の麓へと分け入ってゆく。夕方であれば尾根の彼方に沈む夕陽を見られるだろう。

あらかた伝わっただろうか。これが僕たちの町だ。

奥多摩は都市ではない。そのほとんどが山林で、人間社会によって制御されている要素が少ない。だから都市部の様に便利ではないし、もしかしたら都市部ほど安全でもないかもしれない。

奥多摩は都市ではない。しかしそれこそが、この町の魅力なのだ。

おまけ:駅前の横丁で一杯いかが?

秘密の絶景を堪能した後は、そのままトンネルの上を直進すれば奥多摩駅裏手の住宅街に出て、そこを通り抜けて駅へと降りられる。

駅前には「お稲荷こみち」と「柳小路」という小路があり、どちらもたくさんの飲み屋が立ち並ぶ横丁になっている。

柳小路の入口

どの店も中の様子が見えないので入りづらいかもしれないが、ここはひとつ思い切って飛び込んでみよう。地元の人たちに交じって奥多摩の夜を楽しむのが、この旅の真の締めくくりに相応しいだろう。

Writer

この記事を書いた人

スー

2015年、なんとな~く奥多摩に移住。現在、妻の営む整体サロンの片隅で、電動バイクレンタルショップをこっそり営業中。少年ジャンプと科捜研の女がイキガイのシガナイ中年。

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