2020年01月14日
働くなら山のあるところで。その想いから始まった雲取山での山小屋生活
僕の仕事場は奥多摩のさらに奥、山梨県丹波山村にある温泉山小屋・三条の湯。2年前からここの小屋番をしている。
「働くなら山のあるところで。」
そう思った8年前、当時就いていた仕事で奥多摩に異動し、この町に通い始めた。住処も荻窪から昭島、そして青梅。西へ西へ、山へ山へと流れてきた。
奥多摩では各分野で活躍するスペシャリストが気兼ねなく付き合ってくれ、知識や経験を惜しみなく伝えてくれる。
僕は奥多摩の山渓を歩き、自転車で峠を越え、多摩川の急流を下り、木工を教わりながら楽器を作り、山奥で野生動物を観察しながら樹木や山野草、地質を学んだ。町の人々は奥多摩の歴史を聞かせてくれた。
そんな奥多摩での山遊びを通して身体と感覚が養われ、そこで得た自信と興味から日本各地の山へと旅をした。
奥秩父にあるクライミングのメッカ、瑞牆山。
山形県の以東岳から見た紅葉に染まる朝日連峰。
山形県の飯豊連峰と日本三大雪渓の石転沢。
素晴らしい自然の風景美を堪能し、自然の恐ろしさも目の当たりにした(詳しくは僕の山旅日記「モグラの旅日記」にて)。
しかし旅先でいつも心を動かされたのは宿や店、山麓に住む人たちの温かさとおもてなしだった。地域の情報や歴史、食文化まで紹介してくれ、豊かな旅に仕立ててくれた。その有難さを旅人として強く実感していたし、いつしか憧れも抱くようになった。
そんな経験から、僕は「“宿ヤ”になろう」と決心した。
当初は2019年に閉鎖した奥多摩唯一の山小屋「奥多摩小屋」の再建に携わりたかったのだが、山小屋運営の知識も経験もない僕に何ができるのだろうと考え、まず山小屋での修行をするために三条の湯の門を叩いた。
なお奥多摩小屋は奥多摩町の管理下にあるため再建も何も町次第だ。しかしロケーション抜群の奥多摩小屋の閉鎖を惜しむ登山者の声は今なお止まない。
現在の三条の湯での山小屋生活については「山ちゃんの小屋番日誌」を覗いてもらえれば多少は伝わると思う。周りの自然環境に溶け込むような暮らしがここにはある。
都会とも奥多摩の暮らしともかけ離れた生活なので参考にはならないだろうけど、こんな山暮らしも奥多摩の山地にはあるということを知ってもらいたい。
宿ヤとしての旅人のサポートには今までの経験や知識、繋がりが生きている。
三条の湯の利用者は東京都最高峰かつ日本百名山の雲取山を目指してくる人が多いが、隣接する丹波山村にある飛龍山(山梨百名山)の隠れた大展望テラスや咲き乱れるシャクナゲのことをお客さんに話してみたりする。
さらに、僕自身が山登り後によく寄り道していたお店や癒やしのスポットを伝えておくと、奥多摩のお気に入りスポットが増え、天気や季節に関わらず足を向けてくれる人が増えてきている。
たまたま雲取に登りに来た人がリピーターになってそんな話をしてくれたとき、宿ヤとしての喜びを感じる。
ゆくゆくは自分の宿を持ち、妻とふたりで東北のどこかでペンションやゲストハウスをひっそりと……という次の夢はあれど、奥多摩での想いは果たしおきたい。
僕は来てくれた人たちに、この奥多摩にある町や村、山を好きになってもらいたい。そんな想いを三条の湯で表現している。
同じタグの記事を探す
Writer
この記事を書いた人
Recommend
おすすめの記事
Keyword