Diary

おくたま日記

2020年03月23日

ある朝目が覚めたら、我が家の駐車場が血の海になっていた

奥多摩を舞台にした某刑事ドラマでは、奥多摩町内で頻繁に殺人事件が起きていた。人口比で考えるとまあまあなバイオレンスタウンのように思えるが、実際は凶悪犯罪とは縁遠い平和な町だ。

そんな奥多摩町で暮らす僕だが、実は大変おそろしい体験をしたことがある。今回は平和な日常を襲った恐怖のできごとを紹介する。

目覚まし時計かと思ったら……

目が覚めた。朝だ。外が明るい。

ピッピッピッ……。

脳を直接突き刺すような、甲高い電子音が聴こえる。目覚まし代わりにしている古い携帯電話を手に取ったが、まだアラームの時間ではなかった。そもそもこの目覚ましならば電子音でなくメロディが流れるはずだ。

妻の目覚ましか? ……違う、どうやら音は外から聞こえてくるようだ。

のそのそと布団から這い出し、上着を羽織って玄関を出ると、電子音は一層明瞭になった。かなり近い場所で鳴っている。が、反響しているのか、正確な場所がつかめない。

僕は耳を澄ましながら家の駐車場へ続くスロープを下っていった。そして眼前の光景に息を飲んだ。

山へ続く坂道に沿った駐車場、その中央あたりに黒ずんだ血だまりが出来ていたのだ。直径にして1メートルは越えていただろう。血だまりと言ってもほとんどの水分は地面に吸われ、すでに乾燥しつつあったが。

混乱しながら近づくと、血だまりのそばに一台の無線機が落ちていた。無線機というのはバッテリー残量が少なくなると警告音が鳴る。僕を起こした電子音の発生源はこれだった。

ひとまず警告音を止めよう。そう思って手を伸ばして、やめた。よく見るとその無線機も血まみれだったからだ。

道路に目線を投げると、さらに別の血痕が見つかった。駐車場の前から坂の上に向かって引きずられたような跡が5〜6メートルに渡って伸びている。

一体何が起こっているのか分からないが、とにかく尋常ならざる事態だ。僕は自宅へ戻り、レジ袋を取って戻った。手を触れないように無線機を袋に入れ、近くの交番へ届けることにした。

おまわりさんもビックリ

奥多摩の交番は駅から歩いて1分ほどのところにある。某ドラマには奥多摩署という警察署が登場したが、現実には奥多摩は青梅警察署の管轄だ。勤務している警察官も、中には地元の人もいるかも知れないが、基本的には青梅から来ている人たちらしい。

僕が血まみれの無線機を届けると、ひとまず一緒に現場を見に行くことになった。軽い雑談をしながら現場に戻ると、若い警官は先ほどの僕と同様に絶句していた。やおら「なんだこれ……。」と発し、駐車場に踏み込む。道路の血痕を見てもう一言、「ホントになんなんだ……?」

交番に戻ると調書が作られた。僕の説明を聞きながら、警官が情報をサラサラと書き込んでいく。別の警官はどこかに電話をかけ、無線機の落とし物だとか、昨晩救急搬送されたけが人がいなかったかなどを確認していたが、どうやら何も該当しなかったようだ。

警察に届けたところで、すぐにどうこうなるものでもないし、ともかく血まみれの無線機の発見者としての責任を警察に託して、僕は家に戻った。

結局のところ、登山者が大けがをして流血状態で下ってきたとか、そういう類の事故なのだろう。少なくとも死体が転がっていたわけではないのだから、死人が出たということはないだろう。殺人事件というのも現実離れし過ぎている。

気分の良いものではなかったが、気にしても仕方がないので、ひとまずいつもと変わらない一日を過ごすことにした。

謎はすべて解けた!

その日の午後、事の真相は隣人との10秒くらいの会話によって明らかになった。

「昨日の夜、猟友会がイノシシを追っていた。」

「この上(うちのすぐ上の山)で道路に出てしまった。」

「そこ(うちの駐車場)に追い込んで仕留めた。」

大雑把に言うと、こういう話だった。

その後猟師さんがそのまま駐車場でイノシシの処理をしていたようなので、無線機はその時に落としたのだろう。すべての謎が解けた。

ドラマの様な展開ではなかったけど、結構すごい出来事だ。家の駐車場でイノシシが仕留められていたなんて都会ではあり得ない。

それにしても、夜中に至近で銃声がしたはずなのに夫婦ともども気付かずにぐうぐう寝ていたという危機感のなさ。奥多摩は平和だ。

ともかく人が死んでたりとか、事件だったりとか、そういうのじゃなくてホッとした。ホッとしたが、反面こうも思った。

人んち血まみれにして、ほったらかして行くんじゃねぇよ、と。

奥多摩では珍しいことではないのかも

その日の晩、僕は駅前の横丁に呑みに行った。常連の地元客で賑わう「しんちゃん」というお店だ。そこで早速、朝の出来事を話のネタにしてみた。

「今朝家を出たら駐車場が血まみれだったんですよ。更に血まみれの無線機が落ちてて……!」

「そりゃあイノシシだな。」

「あ……、いや、はい、そうなんです……(オチ言われちゃった)。」

どうやらこの程度の事は奥多摩ではありふれた日常のようだ。おっそろし~!

Writer

この記事を書いた人

スー

2015年、なんとな~く奥多摩に移住。現在、妻の営む整体サロンの片隅で、電動バイクレンタルショップをこっそり営業中。少年ジャンプと科捜研の女がイキガイのシガナイ中年。

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